「ロスト失踪者たち」を読んだ感想
雀荘
先日、友人と誘い合って近所にある雀荘へと足を運んだ。こじんまりとした雀荘で、いつ行っても常連の兄さんと爺さんがいる。爺さんの方は朝6時から仕事だと言っていた。いつ寝ているのだろうか?しかしながら年の功、この爺さんが調子よかった。「つぅもぉ~」とねっとりした口調で待ち牌をツモりあげ、チップを若者たちからカツアゲする。今回は浮けなかったと、2人してとぼとぼ帰路についたのであった。
今週のお題に「理想の老後」とあるが、やはり金には困らず打ちたいときにふらっと麻雀ができるというのが最高の老後ではなかろうか。
さて、その時メンバーさんが1人卓に入っていたのだが、その姿から押川雲太郎さんの「LOST(ロスト)-失踪者達-」という漫画を思い出した。
ロスト失踪者たち
この麻雀漫画は元々近代麻雀に掲載されていた、雀荘を舞台にした読み切り作品で、原作を押川雲太郎さん、作画を江戸川エドガワさんが担当している。押川さんといえば、「根こそぎフランケン」や「麻雀小僧」で有名な漫画家だ。
この「ロスト」、最初は一般紙に載せる予定の話だったようで、麻雀をよく知らない人でも読みやすいよう、簡易な麻雀のルールなど作中の説明は詳しい。
漫画の内容だが、家族を捨てすべてを失った男が雀荘のメンバーとなり生きてゆく、というストーリーだ。題名通り、「失踪者」の流れ着く先としての雀荘が物語の中心となる。読んだ感想としては、その「リアルさ」があげられる。
一般に麻雀漫画といえば派手な闘牌シーン、一癖も二癖もある登場人物だが、この漫画にはどちらもほとんど見られない。日々の小事件を淡々と処理していく、そんなイメージを持つ漫画だ。しかしそれが、雀荘での日常を「リアルに」描く効果をもたらす。
生き残るため
舞台となる雀荘は少々「高く」、生活としての麻雀は相当シビアなものになっている。作中では数十万の借金を負ってしまったメンバーも登場するが、現実でも大いにありうることだろう。したがって主人公は勝って生き残るため、一度隙を見せてしまった相手からは容赦なく毟り取る覚悟を決めている。
例えば第2話「見せ牌」。ある日「杉山」という老人と卓を囲むことになる。
老人だが麻雀は強いらしく、何時間も粘り強く打っている。山田が卓に入るまでは12時間も打ち続けだったようだ。しかしながら老体、さすがに疲れが見えてくる。
この時山田はドラの3筒単騎待ちで七対子を聴牌していた。しかし杉山の手から西が見えたのを見て、待ちを次にツモってきた西に変更、リーチをかける。
杉山は安牌を取っておいてよかったと西を切ろうとするが、ふと不審がる。
まさかな......と西を切るが、一発放銃。これを機に杉山はズルズルと負けが込みだし、15万ほど負けて帰る羽目になった。
苦痛にゆがむ感情的な杉山の顔とは対照的に、山田の目は死んでいる。勝つためには手段を選ばず、生きてゆくことを決めているのだ。
「リアル」な生き方
元々一般紙掲載を目指していただけあって、闘牌シーンはそれほどメインではない。むしろ、雀荘という異質な空間内でのそれぞれの人間の生き方に焦点を当てられている。内容が地味だという感想がよく見られるが、淡々とした語り口にこそ日常の凄みが感じられるのである。
主人公のように覚悟を決め生き延びようとする者は少なく、何十万ものアウト(店からの借金)を作ったりする者、逆に給料をちょろまかす者、他人の金に手を出して大負けする者など、大概は破滅して消えてゆく。盛衰の激しい厳しい環境で生き残るとはどういうことか、麻雀を通して考えさせられる作品である。一巻完結のこの漫画、買って損はないだろう。
関連記事